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京都地方裁判所 昭和38年(ワ)458号 判決 1964年5月25日

原告 本田

右訴訟代理人弁護士 鈴木権太郎

被告 西川力雄

右訴訟代理人弁護士 杉島勇

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

原告主張の(二)の事実は当事者間に争がない。

≪証拠省略≫によれば、昭和三五年七月二〇日被告が訴外会社の代表取締役を辞任し、同日田中信彦が訴外会社の代表取締役に就任し、同月二六日右辞任、就任の各登記がなされた後、訴外会社より包括的に手形振出の代理権を与えられていた山本英雄(同人は訴外会社の取締役であつたが、訴外会社は同人の個人企業的色彩の濃い会社であつた。)が、自己を表示する名称として、訴外会社の退任代表取締役である被告西川力雄名義を用い、「株式会社京荷商店代表取締役西川力雄」の記名捺印をもつて、本件手形(甲第一号証の一ないし八)を振出した事実を認めうる。

ところで、(1)甲株式会社より手形振出の代理権を与えられていたBが、自己を表示する名称として、A名義を用い、「甲株式会社代理人A」の記名捺印をもつて、手形を振出した場合、「甲株式会社代理人A名義」の使用をAにおいて許諾していたか否かを問わず、甲株式会社のため有効な手形振出行為が成立する。

(2)また、甲株式会社より手形振出の代理権を与えられていたBが代表取締役でないのにかかわらず、「甲株式会社代表取締役B」の記名捺印をもつて、手形を振出した場合、甲株式会社のため有効な手形振出行為が成立する。

(3)したがつて、本件のように、甲株式会社より手形振出の代理権を与えられていたBが、自己を表示する名称として、A名義(本件の場合、Aは甲株式会社の退任代表取締役であつた。)を用い、「甲株式会社代表取締役A」の記名捺印をもつて、手形を振出した場合、「甲株式会社代表取締役A」名義の使用をAにおいて許諾していたか否かを問わず、甲株式会社のため有効な手形振出行為が成立する。

本件の場合、Aは甲株式会社の退任代表取締役であつたが、甲株式会社の代理人であるBが、自己を表示する名称として、甲株式会社の退任代表取締役であるA名義を用いることは、もとより、ありうることであり、Aが甲株式会社の退任代表取締役である場合とそうでない場合とを、異別に解すべき理由はない。

それゆえ、本件において、「株式会社京荷商店代表取締役西川力雄」名義を被告西川力雄において許諾していたか否かを確定するまでもなく、訴外会社代理人山本英雄の本件手形振出により、訴外会社のため有効な手形振出行為が成立するから、訴外会社は、振出人として本件手形金支払の義務があり、被告は、本件手形金支払の義務はない。

よつて、原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小西勝)

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